雨が降り続く今週末、おんもへ出られず公園でお花の写真を撮ることはできませんでしたが、おかげで図書館の返却期限が迫っている本が読めました。
そのうちの一冊が、宮本輝さんの「骸骨ビルの庭」上下巻です。
電機メーカーを47歳で退職した八木沢省三郎は、ビルの管理人として再就職します。管理人とは表向きで、退去期限を過ぎたビルの住人たちに穏便に出て行ってもらう交渉をする役目を負っていたのです。
戦前の大阪市に建てられ、米軍の空襲に焼け残った杉山ビルは、戦後南方から復員してきた阿部轍正に相続されました。しかし阿部がビルに住もうとやってきたとき、そこにはすでに戦後の混乱で孤児になったきょうだいが住み着いていました。
阿部はなんとかきょうだいを施設に入れようと役所と交渉しますが、施設は一杯だしそのうちビルに住み着く孤児が増えてしまい、阿部は自分で孤児たちを育てる決心をします。そして結核を病んで死期が近付いた友人の茂木泰造も同居し、薬のおかげで癒えたのち一緒に孤児たちの面倒を見るようになります。
戦前に農業を大学で学んでいた阿部は、ビルの広い庭を畑にして野菜を作って食料の足しにし、また3階建てのビルの2・3階を事務所にして家賃収入を得て、孤児たちを育てたのでした。
八木沢が管理人としてやってきたとき、阿部は育てた孤児の一人から性的暴行を受けたと訴えられ、その心労がもとでなくなっており、ビルには茂木と元孤児たちが住んだり仕事場にしていたのです。
ビルは阿部の遠縁の者が相続して売却しており、分譲マンションが建つことになっています。いずれ茂木たちは出て行くことを承諾していたのですが、期限が来ても出て行かないので、3人目の交渉人として八木沢が来たのです。
孤児と言ってもみな八木沢と同じ年代で、なんだか怪しげな職業の者もいれば、真っ当な仕事をしている者もいます。そして戦災孤児は少数で終戦後の混乱で親に捨てられた者が多く、それを心の傷にもっています。
八木沢はビルに来てすぐ脅迫文を受け取りますが、前任者が仕事を全うできなかったのもそのためで、どうやらヤクザになって育ての親から勘当された孤児のしわざらしい。
八木沢も仕事をやめようかと思いますが、それも悔しいしそのうちに元孤児たちに興味がわいてきます。孤児たちも八木沢に心を許し始め、自分が捨てられたときのことや、二人の育ての親たちのことを語り始めます。
女はなぜ大恩がある阿部から性的暴行を受けたとウソを言ったのか。茂木たちはなぜビルから出て行かないのか。そして当時まだ27歳だった阿部と茂木は、なぜ生涯結婚せずに孤児たちを育てたのか。
宮本輝さんは、こういう話がうまいですよね。
人間関係や環境がどろどろしているんだけど、心根のいい人たちが精一杯生きている。泥田の中から水蓮の花が咲いているような小説。
骸骨ビルの庭 宮本輝作・講談社
さようならグッドバイ |
at 2020-02-29 17:38 |
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