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出不精日記

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花の回廊 流転の海第5部 宮本輝作

 「花の回廊」「流転の海」シリーズの5巻目で、主人公の松坂熊吾のモデルは作者の父であり、その主人公に遅くにできた一人息子は作者自身なので、半自伝小説といっても良いと思います。



 戦後の混乱期を舞台に、松坂熊吾は人を助けまた助けられ、人に裏切られても裏切るまいとし誠実で誇り高く生きています。

 「花の回廊」では、人に裏切られて事業をたたみ無一文になり、自分と妻は水も電気も止まっている持ち主のないビルに住み、一人息子の伸仁は妹に預け、再起を図っています。



 伸仁が預けられた妹が住むアパートというのが、24世帯のうち10世帯が在日の人々で、家庭内で北と南に別れて争う家もあれば、日本語の読み書きはできないが部屋を茶室にして茶をたしなむ人もいます。日本人の世帯でも、かっとなって人を死なせてしまった父親に売春をしていた母親、熊吾の妹も男と同棲しています。

 高度成長前の大阪の下町で暮らしている人々の心の闇と光。こういう小説を書くと宮本輝さんはうまいですね。

(宮本さんの小説は、何でも私は好きやけどね)



 暗いといえば暗い小説ですが、虚弱だけれど要領がよくて生きていく力のありそうな、熊吾の息子伸仁には、明るい未来も感じます。





花の回廊 流転の海第5部 宮本輝作・新潮社





 しかし~、前の第4部「天の夜曲」から5年もたって「花の回廊」が出たので、前の話をすっかり忘れてしまいました。また読み直そうっと。





流転の海シリーズ

第1部 流転の海

第2部 地の星

第3部 血脈の火

第4部 天の夜曲

第5部 花の回廊


by sacchyant | 2007-09-21 21:50 | 本のかんそーぶん